多様なビルサービスを提供する大成は、11月に開催された「ビルメンヒューマンフェア&クリーン EXPO 2024」に出展。ビル全体の水を変え、清掃の効率化とコスト削減を実現するシステム「T-Bubble」を展示しました。清掃時に使う水に、細かい気泡(ウルトラファインバブル)を含ませることで、水の洗浄効果を引き上げ、便器の内側が通常よりも汚れにくくなります。T-Bubbleとはどのようなサービスで、どのような思いで開発に至ったのか、T-Bubbleの営業担当である松本さんに話を伺いました。
ーーあらためて、「T-Bubble」とは何か、教えてください。
松本:T-Bubbleとは、建物の貯水タンクにウルトラファインバブルの発生装置を取り付けることで、建物全体で使用する水を変え、トイレ清掃の効率を上げるシステムのことです。水中の微細な泡が汚れにぶつかり・入り込み・流すので、水を流すたびに洗浄効果を発揮します。
メリットは大きく4つです。
1つ目はトイレ清掃の効率化。これまでよりも少ない頻度の清掃で、同じだけの美しさを維持できるようになります。その結果、清掃スタッフの負担の軽減や、人手不足の解消、人件費の削減などが期待できます。
2つ目は、排水管内を詰まりにくくすることです。微細な泡が排水管の尿石やバイオフィルムのような固着物に入り込み、根本から除去します。排水管の詰まりを防ぐのと同時に、固着物により発生する匂いも防げます。
3つ目は、洗剤使用量の削減です。清掃頻度を減らせることで、使うはずだった洗剤を使わずに済みます。東京都環境局自然環境部水環境課のWebサイトによると、台所用洗剤100ミリに対して、15,000リットルの水がなければ魚の住める水質に戻せないそうです。それだけ、環境への負荷の大きい洗剤を減らすことで、地球環境の改善に貢献します。
さらに、大成は2021年より「大成SDGs宣言」を掲げ、持続可能な社会の実現を目指していくつかの取り組みをおこなっています。そのうちの一つに「洗剤使用量の削減」があり、T-Bubbleはその実現に貢献できるシステムでもあるのです。
4つ目は、植栽の成長促進です。弊社での検証は出来ていませんが、T-Bubbleの基礎技術であるウルトラファインバブルは農業分野で農作物の成長促進にも活用されているため、建物に置き換えると植栽の成長促進にも効果があると考えています。
ーー清掃に使う水が変わることで、効率化できる清掃業務は多そうです。なかでも、トイレ清掃にフォーカスをしているのには理由があるのでしょうか?
松本:理由は大きく3つです。
まず1つは、システムの構造上、もっとも効率よく清掃業務を効率化できるのがトイレだったことです。トイレは、利用するごとに流されるため、水の影響を受けやすく、ウルトラファインバブルによる高い洗浄効果を期待できます。
2つ目は、トイレ掃除効率化のためのソリューションが、まだ世の中で確立されていないことです。清掃分野では今、さまざまなサービスが生まれており、床を自動で掃除してくれるルンバのようなロボットは随分と浸透してきました。しかし、トイレ清掃に関してはまだまだで、とくに便器をキレイにするロボットは、いまだにベストなものが生まれていません。人の手でやらざるを得ない状況が続いており、効率化のための手段が求められている分野でした。
3つ目は、ビル利用者にとって、トイレのキレイさがとくに重視されることです。大手メーカーの調査によると、「オフィス環境で重視することは?」の質問に対して「トイレのキレイさ」が一番に挙がり(※1)、「執務スペース以外で仕事のモチベーションに影響する場所」の項目で「トイレ・化粧室」が一番にきています(※2)。加えて、私たちが普段接するデベロッパーさまからも、トイレ環境の整備はリーシングにあたって、非常に重要だという声もいただいています。
※1:出典:オフィストイレの意識調査, 2022(LIXIL)
※2:出典:「オフィス水まわり意識調査」TOTO調べ(2018)
ーーT-Bubbleの開発経緯を教えてください。
松本:きっかけは若手時代に経験した、ビル清掃管理業務でした。当時の私は20代前半で、対して、清掃スタッフの方々は自分よりも二回り以上も年齢が上の方々ばかりでした。とくにビル清掃は、テナントが営業を開始する前に終わらせねばならず、早いところでは朝5時からの業務スタートです。自分の親や、おじいちゃんおばあちゃん世代の方々が、朝早くから一生懸命働く姿を見て、何か力になれないかという気持ちが芽生えました。
その後、複数の部署で業務をおこないましたが、当時抱いた気持ちはずっと忘れませんでした。転機となったのは5年ほど前、35歳以下のメンバーで新サービスの開発をおこなうプロジェクトが立ち上がり、そのメンバーに選ばれたことでした。
私も含め5、6名ほどのメンバーが集められ、それぞれが感じている課題についてシェアをしました。私は以前から感じていた、ビル清掃スタッフの方々の負担を軽減できるサービスはつくれないか、という思いを話しました。その思いに、他のメンバーからも共感をしてもらえ、さらに清掃業界が抱える人手不足や高齢化への危機感も重なり、今回のサービス開発がスタートしたのです。
ーー新規事業づくりはなかなかうまくいかないものかと思います。今回、サービスローンチまで進められた要因はなんだったとお考えでしょうか?
松本:やはり大きかったのは、プロジェクトメンバーが共通してビル清掃に関する課題感をもっていたことだと思います。ビル清掃は、清掃スタッフの方々のおかげで成り立っています。現場で働く方々の負担を少しでも軽くすることは、ビルサービスを営む大成の使命だと思っていました。
加えて、会社の方針にも助けられました。大成はミッションに『サービスをデザインすることで、社会に“喜びと感動”を提供します。』を掲げています。社会に価値を提供する取り組みであれば、「まず、やってみよう」というスタンスが強いです。もちろん事業性は問われますが、頭ごなしに否定されることはありません。粘り強く課題を潰していけば、前に進められる環境があり、だからこそ今回のリリースにも至ったと考えています。
ーー開発の際にとくにこだわった部分を教えてください。
松本:効果検証をしっかりとおこなうことです。
古くから、ビジネスの世界では「水」にまつわるサービスは敬遠される傾向があります。怪しい商売が乱立した歴史のせいであり、仕方のないことだと思いつつ、自社の新サービスについて検討してもらうには、エビデンスや実績を示さなければと考えていました。
そこで、大成では自社ビルにT-Bubbleを設置し、約2年間の効果検証期間をもうけました。その結果、大きな効果が出たので、今回のリリースに至ったという経緯があります。
松本:これまでは毎日、スポンジでゴシゴシと掃除をしていたトイレ掃除ですが、清掃頻度を週1回にして2年間が経過しても、キレイさは変わりませんでした。清掃が行き届いていないと、黄ばみや黒ずみが発生しますが、そのような汚れは一切ついていないことが、写真からもわかると思います。
その結果、トイレ掃除の負担が減り、清掃時間の削減やトイレ清掃にかかる人件費削減が実現できました。
ーー2024年11月にサービスをリリースし、同月に開催された展示会「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO 2024」にも出展しています。反響はいかがでしたか?
松本:非常に大きかったです。大成は例年、展示会に出展していますが、今回の展示会は過去いち反響が大きかったと感じます。3日間出展し、すでに数十件の商談のお約束をいただき、導入企業も数社決まっている状態です。
ーーなぜそこまで、よい反響なのでしょうか?
松本:システムがわかりやすいことは大きいと思っています。「水を変えて、トイレ清掃を効率化する」というコンセプトは、非常にシンプルです。そのうえで、「清掃業務を効率化できる」「人手不足を解消できる」といったメリットに、興味をもってくださる企業が多いです。
また、「ウルトラファインバブル」という技術の認知度が高まっていることも、後押しになったと思います。シャワーヘッドをはじめ、さまざまな水回りで使われるようになったことで、徐々に社会に浸透し、導入へのハードルが低くなっているのかなと思います。
さらに、大手企業さまに多いのが、SDGs観点での導入検討です。清掃頻度が1/5になれば単純に、洗剤使用量も1/5まで減らせます。どうしても必要だった清掃スタッフが解放されることも、SDGs活動として定められている17の目標のうち、8番目である「働きがいも経済成長も」につながると、反響の大きい部分です。
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
松本:まずは商談件数を増やし、T-Bubbleの導入企業を増やしたいです。トイレ清掃の課題を解決する新しいソリューションとして、T-Bubbleがファシリティマネジメントの領域で広く認知されるようになれればと思っています。それが実現できれば清掃スタッフの負担が減り、誰もがムリなく、いきいきと働ける社会により近づくのだと思います。大成が全社で取り組む目標「洗剤使用量2026年に2021年比50%削減」を実現するためにも、サービスの普及に力を入れたいです。
T-Bubbleを通してビル清掃の効率化、水質改善に貢献し、よりよい未来づくりに貢献できればと思っています。