大成株式会社のクリーン部門は、現場スタッフがアイディアグッズを考案し、コンクールに応募する取り組みを積極的に行っている。“こうしたい”“こんなものがあったら”という想いに対して実現の可能性を発表する場を設けることで、目で見たものを頭で考える癖がつくのはもちろん、社風にもいい影響をもたらしている。
今回はアイディアコンテストへの参加を決めたキーマンと、現場での取りまとめ役の2人が、アイディアコンテストにまつわる具体例を取り上げながら、クリーン業界が目指す未来について語る。
Profile
池口茂(いけぐち しげる)
FM第1セクター管掌取締役執行役員兼FM第1セクター長。名古屋と東京のクリーン業務及びホテル業務を取り仕切る。大成のSDGs宣言の中では、特に洗剤使用量の削減に向けて励んでいる。森信二(もり しんじ)
FM第1セクター・クリーン2課課長代理。営業職として、ビルの美観を保つために日々クライアントの要望を聞きながら尽力している。プライベートでは食品ロス問題を意識。趣味はマラソンとゴルフ。
アイディアコンテストは、
現場の意見を自分たちで解決していく建設的な場
池口:我々は7年前から「ビルクリーニング・アイディアグッズ大賞」に参加をしています。これは清掃業界の専門誌、月刊『ビルクリーニング』を刊行しているクリーンシステム科学研究所が主催しているコンクールで、現場で生まれたアイディアグッズを発表するというものです。当社では「アイディアコンテスト」と呼んでいます。優秀な作品は誌面上で表彰されるほか、2年に1度行われる「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO」で展示されます。
参加のきっかけは、私が浜松支店長だった時に、浜松のスタッフをもっと外にアピールしたいと思ったことです。当時のスタッフはなかなか仕事の目的を認識できず、目標を見失っていました。アイディアを生み出してコンテストに参加すれば、雑誌などを通じてスタッフの存在を知ってもらえるのではないか、と思いました。私が名古屋に移った後は、クリーン現場間での横のつながりを持たせることを目的に参加を決めました。すでに名古屋では3回目、東京でも2回目になります。
森:コンテスト参加にあたっては、1人ずつではなくチームを形成してアイディアを出し合っています。名古屋では1チーム6名で4チーム、総勢24名が集まって、それぞれのチームが約3ヶ月かけて社内で発表する準備をします。2週間に1度集合し、チームで出たアイディアについて話し合いながら、具体的に作品を仕上げていきます。日頃の清掃作業の中で何かを考えるのはなかなか難しいので、特に準備期間の3ヶ月は現場で困っていることに意識を向けてもらうようにしています。
池口:目標を掲げてチームでプレゼンをする機会はほとんどないですからね。スタッフたちも、“2年に1度のイベント”として楽しみながら取り組んでいますよね。
森:集まる度にアイディアが良いものに変わっていくことを実感できますしね。現場の仲間たちとのコミュニケーションが生まれるのも、良いことだと思います。
池口:清掃現場は、どうしても毎日同じことの繰り返しになりがちなんですよね。そんな中で、普段会わない人たちと話し合いを重ねながら1つのものを作り上げていくと、良いチームワークができて達成感を味わうことができます。アイディアグッズを考えることももちろん大切ですが、自分が知らない現場にどんな人がいて、どんなことを考えているかを知るきっかけにもなるので、その経験も良い点だと捉えてコンテストを活用しています。
実は、若いスタッフがもったいないタイミングで辞めてしまうことが多いんです。我々の仕事は、物を売る仕事と比べるとお金を稼ぐ仕組みがわかりにくいので、価値を見いだせなくなってしまいがち。でもその問題を1人で抱えるのではなく、相談できる人がいて、様々な考え方を聞くことができれば、前に進んでいけるじゃないですか。そんな機会づくりにも役立っていると思います。
腰に負担のかかる背負式クリーナーを、見事軽量化!
「らくらくりーなー」で作業後の疲労が格段に減った
森:2021年に応募した「らくらくりーなー」という作品が、「ビルクリーニング・アイディアグッズ大賞」で見事佳作を受賞しました。既製品の背負式クリーナーの中身をハンドクリーナーに変えて、軽量化を図ったものです。経験豊富な女性スタッフYが考案した、とても優れた作品です。
既製品の背負式クリーナーは重さが4.5kgあり、腰への負担や疲労の蓄積などが問題になっていました。年配の女性も多く働く現場では、あまり適したものではありませんでした。そこで、軽量のハンドクリーナーを背負式にしたことで、重さを1.4kgまで軽減することができました。
池口:それと、既製品は排気の熱気がちょうど腰の辺りに当たることも問題でしたよね。
森:そうなんです。そこでYはなんとペットのキャリーバッグを利用して、ハンドクリーナーを収納できるようにしたんですよ!洗濯機の排水ホースを本体につなげてバッグの下部(後ろ足用)の穴から出し、クリーナーのヘッド部分につなげられる仕組みになっています。
池口:女性ならではの工夫が活かされている、非常に良い作品ですよね。クリーン業務の現場は80%が女性ですから、もっと女性の目線を大事にして女性が活躍できる現場にしていきたいですね。
森:「らくらくりーなー」は、実際の清掃現場でのバキューム作業で採用しています。導入によって効率化が実現したわけではないですが、作業後の疲労度が全く違うと女性スタッフが喜んでいます。
クリーン業務では身体を壊して退職されてしまう人も少なくありません。長く働ける環境づくりのためにも、引き続き身体への負担軽減や事故が起こらないような対策をしていきたいですね。
働き方改革からIoT、洗剤使用量の削減まで
より良いクリーン業界を目指して取り組みたいこと
池口:コンテストへの参加によって、社内では、アイディアを実現する風潮が少しずつできあがってきたと思っています。目で見たものを頭で考える癖がついてきましたしね。ですから、今後も積極的に参加していきたいですね。
もう少し会社目線での話をすると、我々のような歴史ある会社も変わっていかないと生き残っていけないと思うんです。良いところは守りながらスピード感を落とさずに、新しいことに取り組んでいく姿勢を大事にしないといけないですよね。
森:そうですね。例えば積極的に進めていきたいのがロボットの導入です。清掃現場にロボットがいることが当たり前の風景になるようにしていきたいですね。
池口:ロボットと人間が協力する体制が必要ですよね。単に効率化ばかりを求めるわけではなく、まずはロボットがいる現場に慣れてもらうことが大事なんじゃないかな、と思っています。
森:そして若い世代がクリーン業界に興味を持って、仲間に入ってくれたら嬉しいですね。
池口:そうですね。新しい発想を取り込みたいですからね。ダイバーシティ化ももっと推し進めるべきだと思っています。現在、技能実習制度でベトナムとミャンマーの方が100名以上働いていますが、その方たちがレベルアップしてマネージャークラスで働く状況になるのが理想。そうすれば幅広いマネジメントができるようになりますからね。
それと我々のSDGs宣言にあるように、洗剤使用量の削減に取り組んでいきたいですね。これまでに集めた様々なデータを元に、今年からは具体的にチャレンジしていく予定です。もちろん洗剤をゼロにすることは難しいですが、削減に向けて皆が意識を変えていくことが必要だと思っています。