2025年7月30日から8月1日までの3日間、不動産業のDXを実現するサービス・ソリューションが集まる展示会「不動産DX EXPO 2025」が東京ビッグサイトにて開催されました。大成は同展示会にてブースを設置し、さらに代表取締役社長CEO 加藤 憲博氏が、「デジタルツインを活用した次世代ビル管理」をテーマに講演をおこないました。本記事では、講演内容についてお伝えします。
不動産DX EXPO 2025は、不動産業界のDXソリューションが集まる展示会です。最先端テクノロジーを活用した製品やサービスが展示され、さまざまな分野のリーディングカンパニーによるセミナーも開催されます。
同展示会で大成は、開催期間の3日間すべてに参加し、最新デジタルツイン(※)テクノロジーを活用した次世代ビル管理システムの展示をおこないました。ブースには3日間で130社ほどの来場があり、多くの不動産関連企業に、最新ソリューションを知っていただく機会となりました。
※デジタルツイン:現実世界の物理的なモノやシステムを、サイバー空間上にデジタルで再現する技術。現実世界の状況を見える化してリアルタイムで把握したり、仮想空間上でシミュレーションをおこなうために活用される
とくに反響が大きかったのは、大成が日本版ローカライズと販売を手がける、シンガポールのAnacle Systems社が開発した不動産システム「Simplicity®」です。詳細は記事後半の講演内容にて詳しく説明します。
Anacle社との協業については、下記をご覧ください。
大成株式会社とAnacle Systems Ltd 戦略的パートナーシップを締結
大成は同展示会で「次世代のビル管理手法」をテーマに講演を実施し、代表取締役社長CEO 加藤 憲博氏が登壇しました。講演には多くの業界関係者が訪れ、登壇会場は満席でした。
講演では、日本のファシリティマネジメント・ビルメンテナンス業界が抱える課題の整理からスタートし、「Simplicity®」を含む最新ソリューションの紹介がおこなわれました。当日の具体的な講演内容をお伝えします。
加藤:私たち大成は創業以来、ファシリティマネジメント・ビルメンテナンスに携わり、経験とノウハウを蓄積してきました。
また、IoTやAIなど最先端技術の導入にも積極的に取り組んでいます。独自開発の「T-Spider」は、今までハード/ソフトウェアが保有していたデータや、人が保有していた経験値・実績データをクモの巣のように結び、あらゆる情報の連携を実現するシステムです。
創業から60年以上が経ちましたが、日本のビルメンテナンス業界は今、大きな課題に直面していると感じています。
発端は深刻な人手不足です。警備業の有効求人倍率は6.06倍と非常に高く、清掃業は1.28倍と警備業よりは低いですが、それでも全業種平均と比較して高水準となっています。業界全体が人材確保に苦しんでいる状況です。
設備管理の求人倍率については、正確なデータの算出が難しく、数字でのお伝えができません。ただ、長年業界に携わる我々の感覚としては、警備業と清掃業の間ほどの求人倍率だと感じています。厳しい状況であることは間違いありません。
数年前までは、求人媒体での募集で経験者の採用ができました。しかし現在は、人材紹介会社を通じた採用がほとんどの割合を占め、求職者も未経験の方々が大半です。
一方で、オフィスの新規供給量は増え続けており、東京23区においては2024年から2027年にかけて、13.1万坪もの大規模ビル供給が見込まれています。
管理面積・管理棟数が増加するなかで人材が減るという深刻なギャップが生まれており、従来の管理手法では対応が難しい状況になってきているのです。
日本の直面する課題を解決するためには、業界最先端のテクノロジーの導入が不可欠です。そこで、大成は2024年にシンガポールの不動産システム開発会社Anacle(アナクル) Systems Ltdと戦略的パートナーシップを締結しました。
アナクル社は不動産管理のためのシステム「Simplicity®」と、エネルギー管理に特化したシステム「Starlight®」を提供するIT企業です。シンガポール国内および東南アジア諸国で豊富なシステム導入実績をもっています。
シンガポールは国土面積が日本の23区とほぼ同等でありながら、人口は日本よりもはるかに少ない国です。さらに、国民の多くが移民で構成され、人手不足という課題は日本と同等かそれ以上に深刻でした。
そこで、政府が国家戦略として人に頼らない新しい管理手法を推進しており、国の補助金・助成金を大規模に投入して技術革新を推進しています。その結果、生まれたのが今回提携したAnacle社のような企業です。ビルマネジメントにおいて、シンガポールは日本よりも2歩も3歩もリードしています。
戦略的パートナーシップ締結の最大の目的は、アナクル社がシンガポールで培った先進技術の結晶である「Simplicity®」の日本市場への適応です。海外発のシステムを日本企業が導入できるようにするには、単純に翻訳をすればいいわけではありません。日本の法制度や商慣習に適合したローカライズが必要です。
大成では昨年から、長年の事業運営で培った経験やノウハウを結集し、日本企業にとって使いやすいシステムにカスタマイズしています。会計制度や税法の違い、宅地建物取引業法など日本独自の法律・法令への対応はもちろん、日本企業にとって使いやすいUI/UXを目指してローカライズを進めています。
ここからは、「Simplicity®」についてさらに詳しくご説明させていただきます。
同システムは、ビルオーナーさまが必要とするあらゆる機能を1つのプラットフォームに統合した総合管理システムです。財務管理、テナントの入退去管理、資産管理、サプライチェーンマネジメントなどの機能が一通り揃っています。
従来、ビルオーナー様が複数の異なるシステムを駆使しておこなっていた業務を、すべて一つのシステムでまかなえるため、業務効率の大幅な向上が期待できます。
実際のシステム活用の様子は、Anacle社が投稿したYouTube動画で、2019年に開業したシンガポールの空港「Jewel Changi Airport」での活用事例をご覧ください。
[JPN SUBS] Simplicity® Utilities Solution: Meter Data Management
動画だとサッと流れてしまいますので、ポイントだけ解説します。
まず、こちらの映像の色分けされている画面が、テナントさまの入居状況を表しています。どの場所にどのテナントさまが入居されているのかが一目瞭然で、空き場所の検索も可能です。
続いて、こちらの画面が来訪者ヒートマップで、混雑状況を示しています。青色はスムーズに人が流れている場所で、赤に近づくほど人が滞留していることを表しています。本機能の活用で、リアルタイムでの建物内の混雑状況把握が可能です。
次が、日本では珍しいですが、各テナントの売上データを見える化した小売売上管理の画面です。本画面では、各小売テナントのスペース、契約期間、売上データ、賃料などを把握できます。残り契約期間に応じた色分け表示が可能で、更新業務の効率化もできます。
最後が、全テナントのデータが把握できるダッシュボードです。平均賃料、稼働率、売上の滞納件数、業種別売上推移など、あらゆるデータが本画面で確認可能です。
ここで紹介したのは、「Simplicity®」に搭載されている機能のほんの一部です。さらに詳細が気になる方は、ぜひお問い合わせください。
現在の日本ではいまだに、資産管理のほとんどを紙でおこない、電話やメールでのコミュニケーションがメインの企業が多いです。また、縦割り組織によるトップダウン的な体制が主流で、現場担当者と管理者の双方向のコミュニケーションが生まれにくく、現場の細かい情報が管理者まで届きにくい状況です。
我々が考えるこれからの不動産管理は、あらゆる情報がデジタル上で見える化され、誰もが同じ情報を見ながら、フラットに連携し合えることが前提だと考えています。建物を管理する立場としては、施設のロングライフと資産の価値向上が重要だと考えており、その実現のために、すべてがつながるスマート化の実現を目指します。
実は、すでに東京にて実証実験を開始し、2025年11月までに「Simplicity®」のローカライズを一部完了させる予定です。大成で提供する他サービスとの連携も進めながら、新しい施設管理システムの提供を開始する計画です。
2026年5月には、プラットフォームをさらに高度化させ、IoTデバイスやセンサーを活用した、より多様なデータの収集・解析・見える化を進めます。
最終的には、AIによるさまざまな業務サポート・自動化機能の実装も実現する予定で、故障分析やライフサイクルコスティングをベースとした、AIによる自動予防保全機能を2026年11月までに実現予定です。
どれほどテクノロジーが発達しても、人が重要であることは変わりません。人材採用・育成は継続すべきです。しかし、人だけでは対応困難な局面が今、到来しています。新しいテクノロジーを融合させながら、ますます深刻化するであろう人手不足への備えとして、スマート化の実現を成功させたいです。