2021年に「私たちのSDGs宣言(以下、SDGs宣言)」を掲げ、サステナビリティを重視した経営体制へと本格移行した大成株式会社。大成が手がける製品・ソリューションには、SDGsの考え方が根付いています。どのような思想で製品・ソリューション開発がおこなわれているのか。Tシリーズ責任者を務める、DX企画開発室 室長 加藤 千加良氏に聞きました。
-現在、大成株式会社が展開する製品・ソリューションは何種類あるのでしょうか?
9種類です。具体的なラインナップはコーポレートサイトを見てもらえればと思います。警備ロボット「ugo TSシリーズ」、受付デジタルサイネージ「T-Concierge」、セキュリティカメラ「T-View」など、創業から営む、ビルの管理・メンテナンスに関連する製品・ソリューションを「Tシリーズ」として展開しています。
ー製品・ソリューションを開発する際、心がけていることを教えてください。
メーカーとユーザーの間にあるギャップを埋めることです。
私たちは今でこそ、さまざまな開発をおこなっていますが、もともとはビルメンテナンスのために製品・ソリューションを利用する、いわばユーザー的な立場でした。セキュリティカメラや清掃用洗剤など、膨大な既製品のなかから最適なものを選び、利用する側だったのです。
ユーザーとしての経験が長かったことから、世の中から本当に求められる製品・ソリューションは、とことんユーザー目線に立って開発されたものだとわかっていました。そこで大成では商品開発の際、メーカー目線にとらわれず、適宜ヒアリングをおこないながら、ユーザーが本当に望む機能の開発をおこなっています。
たとえば、Tシリーズの主力商品の一つである、セキュリティカメラ「T-View」は、現場の警備員のニーズを深くヒアリングし、機能を精査しています。警備において求められるのは、鮮明な画像、確実な録画、そしてトラブル時の迅速な映像提供です。逆にそれ以上の機能が搭載されていても、複雑すぎて使いこなせなかったり、購入費や維持費の高コスト化につながります。そこで、必要な機能を残し、他はあえてスペックダウンさせることで、使いやすくコストも抑えられるセキュリティカメラ「T-View」を開発しました。
セキュリティカメラ「T-View」
ー大成の製品・ソリューションは「植林した早生桐を使う」「多様な雇用体制を支える」など、SDGsの考え方が組み込まれています。開発の段階から、意識しているのでしょうか?
会社全体でSDGs活動に力を入れていますが、製品・ソリューション開発では、最初から「環境に優しい商品を開発しよう」「SDGsの◯番に関する製品を開発しよう」と考えてスタートするケースは稀です。つねにお客さまのニーズを追求し、その解決策の提供に力を注いだ結果、自然とSDGsへの貢献にもつながる、と考えています。
たとえばセキュリティカメラの場合、配線が難しい場所への設置が難しいという課題がありました。そこで考えたのがソーラーパネルを利用し、既存の配線を使わずに稼働する仕組みです。カメラとソーラーパネルが一体となったポールを、必要な場所に配置するだけで撮影が可能です。
「T-View」太陽光充電式カメラ
再生可能エネルギーの活用割合を高めると同時に、人の目での監視が難しい場所、危険で人が立ち入れない場所などの劣化を防いだり、安全を保ったりすることも可能です。最近は、農業や畜産などオフィスビル以外の場所でも活用されるようになりました。
ー具体的な商品開発のプロセスを教えてください。
それぞれの製品・ソリューションごとにプロセスは異なります。ただ、開発のきっかけとなるのはほとんどの場合、現場からの声です。日々多くの現場担当者と対話をし、どの作業にどれほどの時間がかかっているのか、どのような問題が起こっているのかといった状況を把握するようにしています。それによって、問題解決の方法や、より効率的な業務プロセスについての「アンテナ」を立てるのです。
その状態で、ベンチャー企業をはじめ多くの企業さまと会話をすると、「これとこれを組み合わせれば、この問題が解決するかもしれない」と、新しい製品・ソリューションの種が生まれます。その後は、パートナー企業さまと協力しながら試作品をつくり、実証実験と効果検証を経て、製品・ソリューションのブラッシュアップを繰り返します。
と、口では簡単に言えますが、スムーズに進むプロジェクトはほとんどありません。企画書や提案書をつくりこみ、コスト試算まで進めていても、市場にフィットするイメージがもてず、開発中止を決めるものも少なくありません。
うまくいくイメージがもてないなかで進めると、必ずどこかで壁にぶつかります。なにより大成メンバーそれぞれのモチベーションが上がらず、そのような状況では、いくら優れた製品・ソリューションでも、ユーザーにうまく届けることはできません。現在リリースしている製品の裏には、製品化されなかったプロジェクトが何倍もありますね。
ー今開発中の製品・ソリューションについて、発表可能な範囲で教えてください。
つねに複数の開発プロジェクトが進行中ですが、発表可能なものだと、建物全体で使用される水にナノレベルの細かい泡を発生させる「T-Bubble」があります。これにより、清掃品質を維持したまま、少ない洗剤量で汚れを落とすことが可能です。とくにトイレ清掃においては、水を流すだけで汚れを除去し、清掃の回数削減につながります。さらに、通常は手が届かない、配管内部も水流によって清掃され、劣化を防ぐことにもつながるのです。
SDGsの観点でいえば、洗剤の使用量を大幅に減らすことが可能で、環境負荷軽減が期待できます。また、清掃スタッフのルーティン業務を削減することで、それぞれのスタッフがより価値のある業務に取り組め、活き活きと働ける環境づくりにもつながるはずです。
昨今、とくに日本ではあらゆるシーンで人手不足が課題として挙げられます。ただ個人的に、今の社会に必要なのは、人手不足解消のソリューションというより、各人のパフォーマンスを高めるためのソリューションだと考えています。なんでもかんでも自動化すればいいわけではなく、人が見るべき領域は必ずあると思っているのです。
AIや機械に勝てないところは任せつつ、五感の鋭さが必要だったり、経験が必要だったりする世界に、人が集中できる環境を構築できるといいなと思っています。
ー最後に、今後の展望を教えてください。
直近でいうと、シンガポール発の施設管理システムを、日本のビルに導入するプロジェクトが進行中です。
施設の管理・メンテナンスといった「ファシリティマネジメント」を越えて、不動産オーナーになりかわってさまざまな業務を代行する「プロパティマネジメント」、不動産をはじめとする資産の管理・運用をおこない、資産価値増加をサポートする「アセットマネジメント」など、これまでより広範囲で質の高い施設管理を提供したいと考えています。
他にも、水面下でさまざまな開発プロジェクトが進行中です。アンテナを高く保ち、新しいテクノロジーを積極的に取り入れながら、ユーザーへの価値提供を最大化できればと考えています。同時に、既存の製品をしっかり市場に浸透させることにも力を入れていければと考えています。認知拡大と合わせて、ユーザーからのヒアリングをもとにしたブラッシュアップを重ねる予定です。
さらに、既存製品・ソリューションの連携強化にも力を入れられればと考えています。たとえば、警備ロボット「ugo TSシリーズ」とセキュリティカメラ「T-View」を組み合わせた、新しいセキュリティシステムの構築も検討していることの一つです。
今後は、当社が開発している「T-spider」(マルチプラットフォーム)とも連携し、お客様への情報共有を迅速化させたいと考えております。
単一の製品・ソリューションだけでは、どうしてもできることに限界があります。提供価値拡大のためにと新機能の追加を繰り返しても、ユーザーが求める以上のハイスペックになってしまっては本末転倒です。そのぶん使いにくくなり、コストも上がってしまうからです。大成にはすでに、多くのユーザーから求められている製品・ソリューションがいくつもあります。それらの組み合わせで、新しい課題解決や業務のDX化を実現できればと考えています。